元・靴設計士 兼 現・靴修理人 兼 シューフィッター 兼 靴マニアの こまつです。

東京某所で靴修理やってます。イギリスのノーサンプトンで靴のあれやこれやを学んで、20代の頃10年間ほど靴の設計の世界にいました。30代からリペアの世界へ。靴フェチではありませんが、革靴からスニーカーまで、高いのから安いのまで、めったやたらと書いていきます。お仕事の依頼はツイッターのDMで受け付けてます。

781 靴の縫い糸は、切れない。

 

※暴走回です

 

まず先に────────。

 

【今日のおすすめの1足】

 

30過ぎた男が

「ちゃんとした」革靴がほしいなら

そして失敗したくないなら

スコッチグレインがいいですよ。

 

・脂肪がついて

・足のアーチが広がって

・体重がついてきたならこれだ。

 

「アシュランス」。

 

35200円。

 

グッドイヤーウェルテッド製法。

3E。

 

ステッチワークの細かさはウェストン仕込みか?

 

革底センターとも距離を置く独自のノンスリップ底。

外羽根プレーン。

国産カーフ(子牛)。

アフターケアは世界最高。

 

おすすめです。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

さて。

 

こんばんわ

こまつ@shoes_komatsuです。

 

マニアの方なら当然知っていて

素人の方にはどうでもいい話をします。

ほんのちょっと役に立つかも。

 

 

〇靴底の糸は簡単に切れない

 

はい

もうどうでもいいでしょう?

 

しかし書き始めてしまったから

止まれないw

どんどん書きます。

 

写真①。

たとえばこれ。

底の糸、みえますよね?

 

この糸をほどく(抜く)のって

簡単そうで

実は鬼のように難しい。

 

なにも説明せず────────写真②。

これなんか

底を縫ってる糸がすりきれたら

いかにも切れそうじゃないですか。

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しかし・・・こんなになっても

意外と切れません。

底は穴があいてるにも関わらず。

 

①がグッドイヤーウェルテッド製法で

②がマッケイ製法。

 

どっちも縫い方はほぼ同じで

・ウェルトと縫うか

・本体と縫うか

だけのちがいです。

 

どっちも履くうちに

もちろん糸はすりきれますよ?

 

でも本体と「ばらっ」とは

なかなかなりません。

なんでって・・

 

〇糸をよじりながら縫ってるから

 

さあ

ますますわからなくなってきたでしょうw

 

たとえば服のニットって

毛糸がほつれてきたら

ばらばらばらーっていっちゃうじゃないですか。

 

冬の朝、玄関でニットのはしっこをひっかけて

気づかないまま駅まで歩くうちに

全裸になったことは誰でもあるはず。

 

靴の場合はちょっとちがう。

オーバーな表現でなく

「底糸のほつれ=死」だからです。

 

靴のなかでも革靴って

戦争といつも隣り合わせというか

いつでも戦争の副産物なんです。

 

戦場で靴底はがれたら・・・

死ぬじゃないですか。

だから昔はこう縫ってました。

アメリカの西南戦争くらい)

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松ヤニでより合わせた麻糸を通して・・・

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ねじる!

写真じゃ伝わらんか!

 

「アヤをかける」とか言いますが

こう・・・糸を通したら

ひと針ひと針を

「玉結び」みたく締めるんです。

 

これを日本語では「出し(ダシ)縫い」

英語では「Lock  stitch」(ロックステッチ)

といいます。

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全部の糸が独立してるでしょ?

抜くのやっかいなんですよマジで。

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この状態から!

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さらにここまで削って!

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やっと分離できます。

3000キロカロリーは使いますね(体感)。

 

手縫いだろうが

機械縫いだろうがおなじこと。

2~3か所の糸が切れても

底がべりっとはがれることはありません。

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図解でもわからんでしょうね・・。

自分でやってみるとおもしろいです。

 

どこの家庭にもさがせば必ずある

マッケイマシーン。

あまり知られてませんが
冷蔵庫をひっくり返すと
たいてい標準装備で付いています。

ソース画像を表示

ひと針縫うごとに

コップの底くらい大きなボビンが

「ぐるっ」と一周まわるんです。

要は糸をねじってるわけですね。

 

グッドイヤーウェルテッドと

ステッチダウンのマシーンも一緒で

やっぱりひと針ごとに

糸をねじりながら縫います。

 

マシーンのメンテがたいへん。

針も特殊だし

しょっちゅう使わないと

すぐ機嫌悪くなるし・・・。

 

でもやっぱマシーンは好きです。

グッドの手縫い(ハンドソーン)だと

熟練の職人で片足1時間。

マシーンだと30秒。

 

マッケイの手縫いは・・・・

ちょっと聞いたことがありません。

マシーンだと片足5分。

 

意外とこっちの方が時間はかかります。

縫い目がキレイじゃないと

キマりませんから。

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さらっと得意げに写真撮ってますが

汗だくだし

つま先なんかハンドル手回しなんで

腕が痛ああい。

 

 

〇修理屋にだまされるな

 

そんな感じで

「ここ糸が切れそうになってるので」

から始まって

 

・だからハーフソール貼りましょう

・オールソールの時期です

 

っていう修理屋はサギです。

ノルマに追われてるだけ。

 

私の職場では

新人がこれ言ったらすかさず

私がタイキック入れてます。

 

もう一度言いますよ。

 

靴底の糸は

そう簡単に切れません!

 

実はこれは

簡単に判断できます。

 

・本体と底のあいだにすきまができてるか

 

これだけ。

 

正直にすきまがあったら

お財布と相談してから

縫い直してハーフソールもしくは

オールソールしましょう。

 

なければ

履き心地に違和感がないかぎり

ハーフソールを無理に貼らなくてもOKです。

 

ややこしいですね。

自分で書いててもうんざりします。

 

はっ

 

一番わかりやすい方法は

買うときに

「メーカー修理できますか?」だ。

 

スコッチグレインなら100%

・リーガルは3割以下

・海外製はウェストン以外ほぼ0%

 (ウェストンのリペアはスコッチがやってるので)

 

このへんを目安にしたらいいです。

そうです。

スコッチグレインが最強です。

 

それはまた別の機会に。

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

〇修理はご本人が持ってきて!

 

まただよ。

修羅場アゲインだよ。

未遂に終わったけど。

 

何日か前

奥さんが勝手にご主人の靴をもってきて

ハーフソールを貼って修羅場

っていう事件があったんです。

shoesmaster-komatsu.com

778 買うか修理か。見きわめかた教えます【完】 - 元・靴設計士 兼 現・靴修理人 兼 シューフィッター 兼 靴マニアの こまつです。

 

3日前じゃん!

 

全然別の方ですが・・・・

今日も同じ案件ありました。

 

大事なんで何回でも言いますよ。

 

革底の靴は

奥様が

勝手に持ち出しちゃダメ!

 

なんなのヒマなの?

旦那も旦那だ。

コミュニケーション不足!

 

まあ写真見て。

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ユニオンインペリアル。

 

もとはこんな感じだったはず。

 

 

糸、みえないでしょ?

これが「伏せ縫い」。

超高度な技です。

 

底の裏なのに・・・・

数回履いたらおしまいなのに・・・・

実用性はゼロなのに・・・・

 

職人魂はやるんですよね。

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包丁で1ミリほど革の表面を

めくりあげ

縫い

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縫い目を隠す。

 

「伏せ縫い」とか

「ヒドゥンチャネル」とか言います。

 

ただただ見た目の美しさ。

ぶっちゃけ実用性はゼロです。

個人的には

「わかってる人だけわかればいい」。

 

数か月でも履いたら

1ミリ前後の革なんて

当然ふっとびますよ。

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これでようやく

本来のロックステッチが

こんにちわしたんです。

 

靴にとってはノーダメージ。

 

これをだ・・・

まーた勝手に奥様が持ってきて

「糸が切れそうだからゴム貼ってください」と。

 

たまったまですが

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以前

このご主人とお会いしてたんです。

数回履いたときでしたね。

 

ハンドソーンとはいえ

やっぱトウはすりきれるのが早いので

ゴムで補強したのを覚えてたんです。

 

で。

 

こ「ご主人に革底のこだわりは?」

奥「わかりませんが糸が見えてるので」

 

ふ────────────。

 

カチッ。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

────俺は

じりじりと熱くなりはじめた

東京のビル街に目を配った。

 

女に興味をなくしたわけではないが

目の前の女よりも

今夜抱くジェーンのことを思い出していた。

最後に抱いたのは数週間も前だ。

 

目の前の

こういう依頼者を断れないのも

そろそろ潮時なのかもしれない。

 

ショートピースに火をつけながら

俺は依頼者を座らせるように

促した。

 

「もう一度聞くがラバーを貼っていいのか」

「・・・プロのあなたにまかせます」

 

「貼らんよ」

「・・・・どうして??」

 

女は立ったまだった。

 

どうでもいいことだ。

煙草を一本吸い終えるころには

すべて終わっている。

 

「座ってくれ。目立つと困る」

 

まだ聞こえていないようだ。

 

俺は革張りのソファーにゆったりと

身を預け

もう一度女に言った。

 

「座ってくれ」

 

ようやく依頼者の女と目が合った。

 

一瞬だった。

依頼者の女は目を伏せた。

 

「浮気調査ならよそをあたってくれ」

 

「でも革底ばっかりなんて変でしょう!」

 

あんたのルブタンも変なのかい。

 

無意味な時間だ。

俺は目の前の

冷めきったコーヒーを一気に飲み干した。

 

コーヒーなど色がついていればいい。

 

依頼者の女が固まってる間

頭を整理しながら

俺は茶色のユニオンインペリアルを

無造作に磨いていた。

 

ショートピース一本では終わらなさそうだ。

 

悪くない。

 

質のいい革はよく光る。

 

汚れ落としはブラシだけにした。

リムーバーは乾くのに時間がかかる。

 

革靴は光らせすぎないことだ。

 

鈍く光らせる。

 

それだけを考えてこの数年を過ごしてきた。

 

女。

「私は納得できない」

 

人生はそんなもんだろう、

という言葉を飲み込んで

投げ出された封筒だけを

無造作にスーツの内ポケットに放り込んだ。

 

高安から

ヤマ(仕事)を踏む。

スケてくれ(助けてくれ)。

 

一週間前に言われた時

俺はだまってうなずいた。

 

明日

依頼者を台湾に送り届けたら

それで終わりだ。

 

依頼者をタクシーに乗せ

俺は明日の段取りを頭に叩き込み

もういちどぬるいコーヒーを飲みほした。

 

明日も熱くなるだろう。

どうでもいいことだ。

 

 

 

 

────完────