毎日靴ブログ@元・靴設計士 兼 元・靴修理人 兼 現シューフィッター 兼 靴マニアの こまつです。

東京某所で靴修理やってました。イギリスのノーサンプトンで靴のあれやこれやを学んで、20代の頃10年間靴の設計の世界にいました。30代からリペアの世界へ。靴フェチではありませんが、革靴からスニーカーまで、高いのから安いのまで、めったやたらと毎日書いていきます。修理は9月で退職。現在「全国どこでもシューフィッター」として活動中。HPはこちらhttps://sf-komatsu.com/

1071 職人にとっての死

触るな危険イラスト/無料イラストなら「イラストAC」

 

「職人としての死とはなにか」

ということをずっと前から

聞きたかったのです。

 

おつかれさまです

こまつ@shoes_komatsuです。

 

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そんなたわいもなく

しかし超ヘヴィな質問を問いかけるのに

うってつけの場がありました。

 

きのう浅草で行われた

シューフィルのトークライブ。

 

最後の質問コーナーで

手を挙げたのは私です。

 

 

Image

 

壇上にはレジェンド4人。

 

・山口千尋

柳町弘之氏

・三澤則行氏

・吉見鉄平氏

 

そして司会進行が

シューフィル・城一生氏(感謝!)。

 

ライブの中身についてはここで書くような

軽いものではないので

思いっきり割愛しますが

私は2時間のライブ中

ずっと冒頭のことを考えていました。

 

人間の寿命にも

シンプルな「寿命」と

健康寿命」ってあるじゃないですか。

 

職人にとっての寿命って

どこの時点なのか。

それとも北斎みたいに最後の一枚まで

布団の中で書いてる中の絶命なのか。

(※諸説あり)

 

もちろん視力も衰えるし

手元が狂うこともあるでしょう。

その時点で諦めるのだろうか。

 

あ、私はあっさり諦めましたよ。

16年続けた靴修理の世界を。

 

決定的だったのが有機溶剤の吸い過ぎの

蓄積による手先の振戦。

アル中みたいに指先が震えることです。

 

半年たってだいぶ回復しました。

会社を辞める前後は

肘から先に力は入るんですが

しびれがひどく、

ろくに字が書けない状態でしたから。

 

振戦についても個人差がはげしいので

リペア業界がぜんぶ悪いわけではないので

誤解なきよう。

 

人生短いし前向きに生きたかったし

会社と争うのもめんどくさかったので

やめるときはあっさりでした。

 

ただ・・・リペアではなく

靴をつくる側の職人さんって

あんまり有害なものを使いません。

 

もちろん靴が売れなくなって

商売あがったりだと廃業にはなるでしょうが

それは引退とはちがう気がします。

 

視力が落ちても老眼鏡はあるし

腱鞘炎がひどくなったら

適切な治療で治るはずです。

 

そうではなく。

 

壇上のレジェンドのような4人にとって

靴とは「ギアであって芸術品でもある」と

私は前から勝手に考えていましたし

レジェンド達も言葉はちがえど

同じようなことを仰っており────。

 

・靴に寿命があり

・永遠に操業するメーカーもなく

・日本の靴業界も寿命の直前にある今

 

「職人の引き際」ってどう考えてるんだろう、と

ライブ中の半分は頭の中で

ずっと考えていました。

 

なので最後にど直球で聞いたのです。

 

結論としてはしごくシンプルではありましたが

唸ってしまう答えで

「ジャッジするのは自分ではない」

ということでした。納得。

 

答えの部分、かなり要約してますし

同席された方はご存知でしょうが

こんなにシンプルではありません。

 

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同時にぼんやり考えてしまったことが

「靴は個人で完結するものだろうか」。

 

奇しくも私の質問に答えてくださった

レジェンドも、

同じことを考えていらっしゃいました。

 

 

靴だけではなく

職人の言葉って重いです。

 

 

めっちゃしゃべる職人さんも

たまにいらっしゃいますがw

99%の職人さんはあんまりしゃべりません。

 

不愛想ともちょっとちがう。

 

考えていること、

感じていること、

これまで感じたことを言葉にするには

言葉ってあまりにも単純すぎるツールなんです。

 

テレビでもYouTubeでも

新聞でもWEBでも

私がいっっっっっちばん嫌いな

質問があって

 

「あなたにとってこの仕事を一言で言うと」

 

あの質問が画面を叩きつけるほど

嫌いなインタビューです。

 

一言で言えるほどシンプルな内容では

絶対にないし

なぞかけみたいな答えを出してもたぶん

「やはり職人の言葉は深いですね・・」で

締めくくられるんですよ。

 

あれはマジで腹立ちますね。

 

話もどします。

 

私が何万という靴を見てきて

とくにレジェンド達がつくる

一級品をみてきて感じたのは

 

語りかけてくれるもの

 

ということです。

それが「靴」にも

人間の生死にもあてはまります。

 

靴をつくるときには当然

革をあますところなく使うわけで

その革って生きていたものじゃないですか。

 

理屈ではなく、

一度革製品を集中して

じっくり触ってみてください。

 

すこし言い方を変えましょう。

触る、のではなく

「手で見てください」。

 

不吉でもなんでもなく、あるがままに

かつてそこにあった命を

感じることができるはずです。

 

靴をつくるパーツのひとつひとつが

言ってみれば革製品であり

それを手でもう一度命を吹き込んだものが

靴。

 

だから私は靴をみたときに

「死」と「生」を

同時に感じるんだと思います。

 

職人にとっての「死」=「引退」とは

自分ではなくお客様がジャッジすること、

というのは

自分と相手が同じ命の価値観を

共有できなくなった時ではないか、

と今もぼんやり考えています。

 

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死は死であって

サステナブルではない。

 

業界全体がサステに流されて

それをいいことだいいことだともてはやし

革もどき製品をつくることは

もうあらがえない事態でしょう。

 

やや過激な言い方ですが

それだけ人間が劣化しているのだと

感じます。特に日本人が。

 

割と日本人って命を大事に

するもんだと思ってたんです。

最近「ちがうな」と考え始めました。

 

私もHOKAを愛用してますし

革じゃない靴は靴じゃないとも

言いません。

 

ただ充分革でつくれるものを

あえてなんのかんのと人間がアヤをつけ

「エコレザー」だの

ヴィーガンレザー」だの

「アクションレザー」だのと口にするのは

おこがましいとだけ言いたいのです。

 

タンナーも廃業し

世の中から「革」がなくなるのは

もう少し先ではあっても

時間の問題でしょう。

 

最後の一片の革がなくなり

語りかけることのないエコレザーを

死んだ魚のような目でつりこむとき────。

 

そのときが「職人にとっての死」の

瞬間なんだと思います。

 

かなり抽象的なことを

気付いたら書いてしまいましたが

ま、そんなことも感じるよね

ってだけの話です。

 

つまり私が言いたいのは

俺はコオロギなんか食いたくねえ

ということです。

 

本題終了。

 

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【今日のおすすめの1足】

 

HOKA「ボンダイSR」。

 

(取寄) ホカオネオネ レディース ボンダイ SR Hoka women Bondi SR Black/Black

 

値段はおいといて

在庫は!あります!

 

フルグレインレザー使用。

これ写真・・というか新品はまっ黒なんですが

使ううちにいい感じで脱色が進んで

ちょっとグリーンっぽくなるんですよねえ。

 

やっぱ革がいいですって!

 

日本にはシカ革がたんまり余ってるんだから

スピングルムーブだけじゃなく

もうみんなシカ革を使えばいいのに。

 

そしてコオロギじゃなく

シカ肉を喰らいたい。

 

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それではまた明日!