毎日靴ブログ@元・靴設計士 兼 元・靴修理人 兼 現シューフィッター 兼 靴マニアの こまつです。

東京某所で靴修理やってました。イギリスのノーサンプトンで靴のあれやこれやを学んで、20代の頃10年間靴の設計の世界にいました。30代からリペアの世界へ。靴フェチではありませんが、革靴からスニーカーまで、高いのから安いのまで、めったやたらと毎日書いていきます。修理は9月で退職。現在「全国どこでもシューフィッター」として活動中。HPはこちらhttps://sf-komatsu.com/

1023 この靴職人の方、どうなんだろう…?

 

おつかれさまです

こまつ@shoes_komatsuです。

 

とてもイヤなことを書きます。

 

これから日本でオーダー靴を作る方が

(あれ?「オーダー靴」ってこんなもんなの?)と

内心後悔なさらないように書きます。

 

誹謗中傷のつもりはなく

個人としての一意見です。

 

そしてなにより私自身は靴職人ではないので

こんなのを書いていいのかも悩みました。

 

お会いしたこともその方のお靴も

実際に手に取って拝見したこともありません。

 

でも書いた方がいい。

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

YouTubeのとある番組で

たぶん「靴職人」として知名度としては

日本一な方が(お父様が特に有名)

ある方に靴をつくる、という動画を見まして

 

(これはない・・・)

 

と勝手に胃を痛めました。

 

なにをもって「オーダー靴」と呼ぶのかは

それぞれの見解ですので

違法ではありませんが限度はあります。

 

それによって日陰に追いやられてる

靴職人さんも

おそらく数多くいらっしゃるので。

 

書きます。

 

 

〇一生モノの靴などない

 

YouTubeに登場されてた方は

20代の若くてイケメンな靴職人でしたが

「僕の靴は一生モノですから」と

冒頭からおっしゃられました。

 

靴をオーダーされた方も

まだ20代のお若い方です。

 

ざっとですが・・・・

ヘビロテしようがしまいっぱなしだろうが

一生モノの靴などありません。

 

革靴としての寿命は40年くらいかな、と

個人的には考えてます。

 

以前のブログでも

 

・トリッカーズ

・ダナー

 

あたりを私は

「自分の方が先に死ぬんじゃないかw」とか

何度も書いていますが、

それは私が46歳だからです。

 

これから医療がどんどん発達して

いつのまにか私も金持ちになり

ドバイに住むことになったとしても

寿命はもって30年くらいじゃないでしょうか。

 

20代の方ならこれから半世紀以上の年月を

普通に快適に歩けて、はじめて

「一生モノ」の靴といえると思います。

 

個人的に最長で現役でキレイ、と感じたものでも

40数年です。

既製品のフローシャイム。

 

世界は広いので100年以上この靴履いてるぜ、

ってかたもいるかもしれませんが

オーダー靴でそれはない。

 

どう頑張って丁寧に丁寧に履いても

 

・革の劣化

・中底の劣化

・職人の腕の劣化

 

にはあらがえないからです。

材料の劣化はともかく

職人だって年をとります。

 

20代と70代で同じか

もしくは腕も視力もレベルが上がる!って

なかなか断言できませんよね。

 

だから軽々しくYouTubeの演出であっても

「僕の靴は一生モノですから」などと

発言するのはかなり誤解を招きます。

 

3~40年履けたら御の字、みたいな表現の方が

説得力がずっとあったのに・・。

 

靴と時計はちがいます。

基本、靴に40年以上の命はないと思って

いいでしょう。

 

老舗のメーカーのディスプレイ品で

「100年前のモノ」とかいっても

革はバキバキに割れてますから・・・。

 

 

〇それを手縫いとはいわない

 

YouTubeの靴職人は語ります。

 

「僕の靴は値段で3ラインあります。

①機械縫いで25万~

グッドイヤーで35万~

③ノルべジェーゼで45万~」

 

ちょっと待って。

 

アッパーの革とか材料費で値段が

あがったり下がったりするのはわかる。

それを差し引いいても高すぎでは?

 

②③から逆算すると

①はマッケイ縫い?

 

いや・・・いいんですよ。

別に機械でできることを

わざわざ手でやる必要はありません。

 

「手縫いではありません」と

ご本人もしっかりおっしゃられてます。

 

グッドイヤー・・・・・。

 

こっから話がおかしくなります。

 

「これが一般的な手縫いの靴です」って。

 

真逆ー!

 

視聴者にわかりやすく言ったのかな。

その意図があっても

さすがにその言葉はダメですって。

 

ざっくり書きます。

 

「手縫い(ハンドソーン)」でおっつかないので

大量生産のためにマシーンごと

「機械で一気につくれるように」したのが

グッドイヤーウェルテッド製法。

 

言葉尻を・・じゃないんですけど

手縫いの面倒さを知っていれば

100%まちがえませんし言い替えません。

 

本当のグッドイヤーだと

底付の段階で「手縫い」の要素は

1%もありません。

そのための全工程「マシーン縛り」ですから。

 

それでも手製と呼ぶのならば

ご自身でリブを取りつけ

チェーンステッチのマシーンを踏み

ロックステッチのペダルまで踏んで

はじめてグッドイヤー製法です。

 

それでも手縫いの要素はひとつも

ありませんが。

 

 

〇クロコにノルべ?

 

最終的にお二人の同意の上で

靴づくりがはじまります。

(まだ動画ではデッサンだけですが)

 

YouTubeの視聴率上であれば

たしかにそれしか選択肢はなかったかもですが

「クロコダイルにノルウィージャン製法」で

決定しました。

 

できます。

 

かっこいいいです。

 

?と思ったのが

「本来フィレンツエの職人にしかできなかった」

って謎ワード。

 

いや・・・

 

もうこの方の意図がわかんない・・・。

 

ノルウィージャン(通称ノルべ)って

とても高度な技ですが

日本人のビスポーク職人なら

一度は通る道なのでは・・・?

 

今は少ないですがサント―二とか

ブランキ―二なんて

普通に既製品ラインありましたよね?

 

たしかにあの縫い方はマシーンでは不可です。

全部手縫いでやってます。

 

しかし

 

・「一番丈夫」

・「世界的にやれる人が少ない」

・「プレミア」

 

をやたらに強調される。

 

たしかに。

しかしクロコにあのピッチで針通すって

けっこう無理ゲーです。

 

クロコダイル(ワニ革)持ってる方なら

イメージつきやすいですが、

あたりまえにウロコに覆われて硬いです。

 

そこに「ふとん針」に近い

針を通すって・・・

できます。

が、革にかなりのストレスがかかります。

 

「僕がつくった靴に関しては

僕が死ぬまで修理できるんで」

ともおっしゃってましたが────

リペア代の方が高くつきますよね。

 

私の予想では3年くらいで縫い目から

アッパーが裂けそうなんですが

どうやって修理するんだろう。

 

ヒールやソールとかの

底材全般ならたしかに数十年もちます。

 

しかしアッパーに関して、

しかも明らかに見栄え重視で

相性の悪そうな製法で45万

(番組内ではプラス20万)って・・・。

 

修理代無料とはどこにも書いてないので

この場合は最悪

作り直しもあり得ます。

 

・・・・・・・・・・・・・

 

さらに

 

「千葉に工場があるので」

「常時50~60人待ち」

「納期は半年」

 

というお言葉もあったので

私が考えてる「オーダー靴」とは

全然ちがうかもしれません。

 

オーダーされてる方が常に

50~60人待ちならこれ以上は

絶対に受け付けられません。

 

普通に2~3倍のキャパオーバーですし

正直仕事が雑になって

30万とかに見合う仕事ができません。

 

さらに靴つくりだけではなく

アートやデザイナーもされてる方です。

 

たぶんですが・・・

 

この方の場合は分業制なのでしょう。

チーム体制じゃないと

この数はこなせません。

 

おひとりで採寸から底付、

修理までやられてたら寝る暇は

2時間もありませんし休みもありません。

 

この靴に関しては半年後には出来る予定ですし

順を追って動画をアップするはずなので

その時点で私がまちがってたらきちんと書きます。

 

このお二人の掛け合いを見てるとき

(これオーダーする側も悪いな)と

すぐ思いました。

 

カネを出すんだからいいわけじゃなく

「フルオーダーだから足に吸いつく靴ができる」

って趣旨が丸見えだったんです。

 

それはいい。

YouTubeだって視聴率がなんぼですから。

 

しかし現実には

ほぼ100%1足目で大正解にはなりませんので

絶望しないでください。

誰でもそうです。

 

2足目、3足目でうまくいけばラッキー。

あなたの思い描いてる言葉で

伝わらなければもうダメです。

 

 

違和感は続きます。

 

 

数十万円かけて靴をオーダーするときに

 

・わかりやすい言葉で

・最低限「革のサンプル」は持ち歩いて

・デッサンはもっと細かく

 

っていうのが普通の

「ビスポーク職人」です。

このコミュニケーションがとれなければ

絶対やめた方がいいです。

 

「牛でも馬でも象でもクロコでも

いけますよ」って。

 

そこ・・・ちゃんと説明しないと

(たぶん裏ではしてるはずですが)

あとから揉めますよ。

 

わかんないからどんな職人だって

サンプルの見本持ち歩いてるんじゃん?

それを秒でさくっと見せないって

個人的にはものすごく違和感しかありません。

 

依頼者が初心者ならなおさら。

 

相性もあるのでお互いが日本人でも

はじめから100%成功なんてありえません。

 

「なんかわからないからなんでもおまかせ」は

たぶん100%失敗します。

 

オーダー靴って

「ビスポーク」って言うんですよね。

 

ビスポーク=be spoken =聞いたことをやる

みたいな意味なので

写真でもデータでも今履いてる靴でも

とにかく情報があればあるだけ

職人がギブアップするまで出さないと

絶対にいい靴はできません。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

気分が悪すぎるので

今日はここで全部おしまいです。

 

YouTubeって編集もありますから。

しょせんは見世物ですから。

裏ではきちんと細かいことも詰めてるはずです。

そう信じています。

 

あとは・・数か月おきに配信されるであろう

動画をチェックするだけです。

 

 

おやすみなさい。