1999年の話です。今はどうなってるか全然わかりません。
人生で忘れられない瞬間があります。1999年夏、貧乏靴留学生だった私は、ロンドン郊外のマノロブラニクの本店?に、不躾にもジーンズとリュックと足元はドクターマーチンで訪れました(土下座)。今から考えれば合点がいくのですが、事前に電話予約が必要でした。ジミーチュウの店でもジョンロブでもそんなことしなかったのに?一応何とか伝わるように、買いに行くのではなく、靴づくりを勉強しているのでショップを見せてほしい、ということも電話で伝えました。
で、地図を見ながら現地に着いたんですよ。
?
明らかに高級住宅街の中で、店らしい店、看板らしい看板がない。
で、よーく探すと本当に表札くらいの大きさで「マノロブラニク」と書いてましたよ。建物は普通の高級住宅の一軒家。わかるわけないじゃん・・。
表札の下にインターホン。カメラ付きじゃなくて、もっとクラシックな「音声だけ」のやつです。帰ろうかと思いましたが、ピンポンして名を名乗ると門が開いて中に入れました。
ギャラリーみたいなショップの中に美男子の店員さんが3人。靴も棚に置いてるのもあれば、ソファーに展示しているもの、床にそのまま展示してあるもの、等々・・ちょっとした個人美術館でしたね。プライスなどもちろん提示していません。
ふと奥の長ーいソファにもう一名お客さんがいるのに気づいたんですよ。モデルみたいに綺麗な、黒人のご婦人でした。もしかしたら本当に女優とかだったのかもしれません。で、そのソファの前の床にばっと見で20数足の靴。盗み聞きをするわけではなかったんですが、聞こえちゃったんです・・・「これを全部と、足がむくんだ時用にハーフサイズ上を全部。」
わああああああああああああ。
来ちゃいけなかったんだ、来ちゃいけなかったんだと思いながらゆっくり出口に向かうと、美男子のまたこれがモデルさんみたいな白人の店員さんが「気になるものはありませんでしたか?」と、ゆっくり、聞きやすい英語で、きったないアジアンヤングマン(私)に尋ねてくれました。「お?追い出しか?」と腹をくくりましたが、目はなんというかふざけていない眼でした(←語彙力!)。とっさに「ジミーチュウとかと違い、なんでこういうショップの佇まいなんですか?」と聞いたところ
「ここはひとつの劇場だからです」
とシンプルな答え。あー、そういえばマノロさんはもともと舞台芸術の方でしたもんねー・・
おっさんになってから振り返ってみると、たぶん電話予約だったのは変な客(私だ)とバッティングしないようにすること、団体客を断ること、あとカネがあろうがなかろうが「ちゃんと、それなりに、セールスだけではない接客をすること」をマジで大事にされていたからではないでしょうか。
あれから20年以上経っちゃいましたが、立派なおじさんになった私は、(今はコロナ的なあれでお休み中ですが)週に2足くらいマノロの靴にハーフラバーを貼ったり、ヒールを直したりしてますが、なんとなくお客様も鷹揚な方が多い気がします。下手でもいいというわけではなく、新品のチェック時に「ここの染みとキズ、ご確認ください」と言っても、「いや、でも靴って履いたらどっちみちキズくらい付くしw」みたいな感覚の方が多くて、ああ、なんかいいなーと思いながら作業してます(ミ〇〇ウとか、バ〇〇〇ノの方はギスギス度が高いかなー、独り言ですが)。
長くなっちゃいました。
今日はこのへんで!